2009年に出版されましたが、
1998年に出された単行本をベースに一部加筆したものなので、
鮮度はかなり落ちています。
ですが、フランスで日本の漫画やアニメが、
どのように広まり、拒絶され、受け入れられてきたか、
歴史を遡った分析なので、特に問題は感じませんでした。
今読んでも充分に興味深い内容です。
著者の本職は軍事ジャーナリストで、SFオタクから軍事オタクに流れ着いたようで、
本書で扱っている(アニメ・漫画の)オタクとは、畑が少し異なります。
しかし、その距離感と、持ち前のデータにこだわる特性がうまく発揮され、
十分な客観性が保たれているように思います。
たまたま、フランスオタク界の重鎮たる人物と知人となり、
いいネタが集まったので、本にしてしまえということなのですが、
その力みのないスタンスにより、
軽めの読み物として成功していると思います。
そのフランスオタク界重鎮の半生の紹介など、横道もいいところなのですが、
これが意外に、フランスの社会やフランス人気質を知るための手がかりにもなり、
それなりに面白いので良かったりします。
ただ、身内話に偏りすぎているので、もう少し広く業界関係者への取材等を絡めて、
全体的なバランスを整えれば、なお良かったとも思います。
加筆部分で少しやっているので、作者自身気づいているのだと思いますが。
その中でフランス人の業界関係者に、
日仏のオタク気質の違いについて聞いているのですが、
なかなか認識がズレていて微笑ましいです。以下にそのいくつかを紹介します。
「日本では、カメラを向けてインタビューを頼むと逃げていく人が多いですね。
フランス人なら進んで発言します。
フランス人はテレビで自分の意見を主張するのが大好きなんです」
→日本のマスコミは、インタビューしても不採用か、
都合のいい勝手な使い方をするので、相手にされないだけです。
「フランスのオタクはカップルが多いです。日本のようにロリコンとか
二次コンはほとんどいません」
→そういうライト層は日本ではオタクと呼ばれていないだけです。
「毎年仕事で『コミケ』も必ず訪れますが、少し息苦しい気がしますね。
フランスの方が参加者がもう少しフランクというか、
オープンマインドのような気がします」
→日本のコミケとフランスのジャパンエキスポは、
目的も参加者層もまったく違うイベントです。
「まあ、これは日仏の文化の違いでしょうが、
コミケなどでは3日も前から並んでいる人がいますが、
フランス人ならやらないでしょうね。」
→同上。
一般の日本人もやらないでしょうし。
特殊な人たちが、祭り半分で並んでるのと、
並ばなければ入手できないものがあるからだと思いますが、
こういう場合、フランス人は、並ばずにデモでも起こすということでしょうか?
ある国の異文化に対する接し方を見つめることで、
その国の社会の特徴、国民性が炙り出されてくるところが、
非常に興味深く、面白かったです。
ル・オタク フランスおたく物語 (講談社文庫)