書籍
1909年発刊の森鴎外による自伝的なエッセイ。
私は、森鴎外に堅苦しいイメージを持っていて、
これまで読んだことがありませんでしたが、
本作は、タイトルが「ゐ」から始まるという理由だけで読みました。
これで、コンプリートまで、「を」と「ん」の残り2つです。
哲学者という設定の主人公は、性欲の薄い人のようですが、
その主人公が、自分の人生を振り返って、性欲に関係しそうなエピソードを
ほぼ時系列で、サラサラ、ダラダラと書き綴ったものです。
ダラダラと退屈な話が続くのですが、
一点だけ、サラッと驚かせてくれました。
主人公の少年、青年期の周囲の友人、知人達は、
「軟派」と「硬派」にほぼ二分していて、
拮抗勢力となっているのですが、
言葉の定義が現代とは少し異なるようなのです。
「軟派」は、性欲の対象が女性である男性、
「硬派」は、性欲の対象が男性(少年)である男性という意味のようです。
なるほど、
「こまけぇこたぁいいんだよ!!」というような男前な定義ですね。
主人公は、不細工という設定にも関わらず、
なぜか硬派に好かれる傾向があって、
身を守るために常に懐刀を忍ばせていたそうです。
他には、見合いの話とか、大した話はないのですが、
明治初期の町の様子、生活の様子が細かく見て取れて、
資料的に面白いというのはありますね。
随所にラテン語、ドイツ語、英語等がちりばめられ、
意図的に衒学的な装飾が施されていて、
それもまた明治という時代を感じさせます。
ヰタ・セクスアリス (新潮文庫)