書籍
1932年発表の推理小説。
ハヤカワ・ミステリ文庫の電子書籍版(宇野利泰訳)を読みました。
エラリー・クイーンがバーナビー・ロス名義で著した悲劇4部作の第1作目です。
探偵は引退したシェークスピア舞台役者で、
事あるごとにシェークスピア劇の台詞を引用し、
中世風の大邸宅に怪しい老召使を何人も抱え込むという、
一言でいえば変人です。
この老探偵の存在により、作品全体がペダンティズムに包まれています。
本作について言えば、この老探偵が金田一なみに役に立ちません。
事がすべて終わった後の探偵の推理は論理的ではあるものの、
可能性を一つずつ潰していくくどい説明は、
論理的思考過程として必要なのでしょうが、
エンターテインメントとしてはあまり光るものを感じられませんでした。
犯人が主要人物ではないので、キャラクターがほとんど描かれず、
当然感情移入もなく、感動も少ないのですよね。
犯人に深く同情し、尊敬までしますが。
どちらかというと警察と検察によるリアルな捜査を追っていく、
硬派な警察小説的な風味が強いのかなと思いました。
警察・検察と探偵が、まだ信頼関係が築けていないこともあって、
互いに牽制し合って、独自に捜査活動を行うところなど面白いです。
だが、しかし、探偵がいくら元役者だからと言え、
完全に他人になり切れるてしまう変装術を持っているという
非現実的な設定はいかがなものかと思いました。
しかも、その変装術が大筋に影響を与えるでもなく、
結局のところ爺さんが周りを驚かしたかっただけという・・・
なんともオチャメな爺さんだとも、さすがの役者魂だとも言えなくはないのですが、
硬派な作風が崩れ、なんとなく中途半端な感じがしてしまいました。
まあ、本作は設定編的な位置づけと考えて、
評価の非常に高い次作に期待します。
Xの悲劇 (ハヤカワ・ミステリ文庫)