乙一は初めて読みます。
純度の高い短編集。
巧くて、センスが良くて、綺麗で、無駄がない。
感嘆しながら一気に読んでしまいました。
新しい感性が滲み出てくるようで、力みがないんですよね。
文庫版は「夜の章」「僕の章」と2分冊になっています。
一見、非対称なカテゴリー分けですが、
読めばその意味は分かるようになっています。
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【夜の章】
短編1つめの「暗黒系 Goth」
浮遊感のあるオチが新感覚的です。
2つめの「犬 Dog」
普通だったら許されないです(大苦笑)
慌てて読み返したのですが、どう見ても犬です。本当にありが(ry
3つめの「記憶 Twins」
2つめのオチの後に、あえて双子設定。クマー。
期待通りかつ期待以上のオチです。
前2編で明かされた森野の「気付かないっ娘」、
「犬嫌い隠しっ娘」などのギャップ萌え属性も、
遠い伏線と言えなくもない深みのある作品で、
背筋がゾクゾクしました。
著者がまだ23歳と若い時の作品ですが、非常に文章が巧く、
普通はネタにならないし、しようとも思わないことを、
ネタとして成立させてしまう程度の能力があり、
今までにない新鮮な感覚を与えてくれるのだと思います。
さて、後編「僕の章」でも「僕」はクールなのか?
何らかの萌え属性の発露があるのか?
どちらにしても楽しみです。
GOTH 夜の章 (角川文庫)----------------------------------
【僕の章】
「夜の章」での「僕」は、セーフまたはぎりぎりセーフ。
「僕の章」での「僕」は、ほとんどアウトまたは完全にアウト。
文庫版は一応こんな区分になっているようです。
1つめの短編「リストカット事件 Wristcut」
「僕」が、自分も事件に巻き込まれたとか、サラッと言っているところが笑えます。
2つめ「土 Grave」
「僕の章」の3つの短編の中では一番好きな作品です。
「僕」が、どこまで狙ってやってるのかわからないのですが、
これしかないという感動的な演出をしますよね。
3つめ「声 Voice」
2008年公開の映画版の配役情報が本短編のネタバレになっています。
私は映画自体は未見ながら配役情報を知ってしまったために、
本短編のトリックを楽しめませんでした。
ネタバレは容易に回避可能なはずで、映画制作者の意図を確認したいところです。
(原作をとりあえず手の届く範囲で汚し尽くして、新規の原作読者が悔しがる反応を
見て楽しむ暗黒系の趣味があるとか、そんなところでしょうか。)
まあ、映画制作者の趣味はさておき、原作の評価は別にしないといけません。
これまで読者は「僕」の視点から「僕」を見てきましたが、
本短編では一転して、別の視点から「僕」を見ることになるのが面白いところです。
人によってはギャップ萌えがあったかも知れませんね。
被害者側の心理描写に頁を割いているのも本短編の特徴で、
深く重たくなっている分、これまでのような鋭利な切れ味はなくなり、
どちらかというと鈍器で何度も殴られたような後味が残ります。
「僕」の事件への関わり方は、ますます深くなり、
冒頭の記述どおり完全にアウトの領域に入りますが、
最後まで「僕」が傍観者なのが良かったと思いますね。
あと、乙一本人によるあとがきが面白いです。
GOTH 僕の章 (角川文庫)