書籍
2003年発表。
叙述トリックはいくつか読んできましたが、
これはその中でも決定版と言っても過言ではないのではないでしょうか。
読み始めは、一人称の少々わざとらしい役作りが鼻につくというか、
清純な香りのするタイトルとかけ離れた、
あまり感じの良くない語りに、調子が狂ったのですが、
読み進めるに従い、非常にリーダビリティの高い、
達人的文章であることに気付かされました。
叙述トリックですから、
終盤では、これまで叙述的に騙していたことの種明かしがされるのですが、
種明かしの後にこれまでを振り返ったときの
物語の肌触りの豹変ぶりが見事です。
いくつかの日本語の妙によって、トリックがより堅牢になっています。
それはそのまま、おまえ騙す気満々だろうという気がしないでもなく、
例えば英訳したらどんな評価になるものかと興味が湧きました。
日本語の妙に頼らずともトリックが破られることはまず無いと思うので、
返って自然な感じになる可能性もあるかも。
葉桜の季節に君を想うということ (文春文庫)