書籍
1920年発行のアメリカの小説。
英語原文と和訳とを電子書籍で購入して、並行して読み進めました。
児童向けの物語なのでサクサクと読み進めることができます。
シートン動物記のような科学的な内容かと思っていましたが、
まったく異なりました。
動物を登場人物(登場動物?)としたファンタジーでした。
オウム、犬、アヒル、猿、フクロウ、豚などなど、
多種多様な動物を登場人物とした場合に避けられないある問題。
食物の問題。
本作においては、そんな問題どこ吹く風と、
華麗なまでに自覚症状なしに問題をスルーしており、潔さすら感じさせます。
特に端的なのは、アヒルが船の下に潜り、
ニシン(herring)をつかまえてみんなで食べるシーンと
その直後にトビウオ(flying fish)と会話して、
近くの島からタマネギを持ってきてもらうシーン。
同じ魚類なのに、ニシンは食物で、トビウオは仲間という線引きが謎すぎます。
そして、ニシンを捕まえたシーンに戻って注意深く読んでみると、
より重大なことを見落としていたことに気付きました。
こいつら、ニシンを捕まえて食べるのは、牛肉(beef)缶の減りをなくすため
などと、サラリとのたまっていました。
トビウオは仲間だけど、牛は食物だったようです。
いびつな設定に対する自覚の無さには、清々しさすら感じさせます(笑)
(herringを辞書で調べてみるとuncountableで使われることも多いようで、
物質名詞のbeefほどではないにしろ、それに近く、
この単語を使うと動物個体としての認識が薄くなるようです。
言語が人の思考に与える影響の大きさたるや!
家畜は食べられて当然だけど、鯨やイルカはかわいそうとか、
迷い無く言えてしまえる無邪気さ樽や!!!)
あと今日的には、人種問題的に問題になりそうだなと思ったのが、
アフリカの原住民のプリンスが、眠り姫に交際を断られたことから、
白人の容姿になりたがっているという設定です。
調べてみたところ、実際に問題となり、
設定が書き換えられていた時期もあったようですね。
ストーリー的にはありがちな冒険譚なので、
大人が読むには食い足りない感じがしますが、
上で触れたような問題が、うまくちりばめられていて、
スパイシーな読み心地を楽しめる作品だと思います。
ちなみに和訳は井伏鱒二。
たまに聞き慣れない古臭い言葉が出てきて、
下手をすると英語よりも日本語の方が難しいくらいです。
(事務事項)作者はイギリス国籍ですが、初版がアメリカで発行されたことから、作品の国籍はアメリカとしました。
The Story of Doctor Dolittle (English Edition)ドリトル先生アフリカゆき (岩波少年文庫)