書籍
2008年出版の中国の小説。電子書籍購読。
冒頭、何の前置きもなく、実況描写が始まり、
「紅色連合」「紅衛兵」など似たような団体名の人たちが殺し合っている中に、
突然放り込まれてワケワカメ状態に。
(「紅色連合」「紅衛兵」をググってみてもよくわからない。3回くらい読み直してしまいました。)
ただし、わけはわからないなりに、筆致は確かで、
文化大革命時代の中国国内の異常な空気感が伝わってきて、
鮮烈なイメージを与えることに成功していると思いました。
そんなこんなで、
文革時代の歴史の真実を浮かび上がらせる超硬派なフィクションなのかな
と思って読み進めていると、
時は現代に戻り、
いきなり、「デスノート」の死神の目のような超常設定が入り込んできて、
「
リング」のようなオカルトサスペンス作品?の匂いもしてきて、
今度は、どこを狙っているのかワケワカメ状態に。
そうこうするうちに、
主人公が、とあるきっかけで、ヴァーチャル・リアリティゲーム
(Vスーツ着用。SF設定ありの文明構築シミュレーションゲーム)
をプレイするようになります。
ゲームの設定から得られる情報によって、
本作のタイトル「三体」は、共産党的な政治用語や何かではなく、
(「三光」とかあるじゃないですか。)
実はSFど真ん中の作品であることが漸くわかってくるという回りくどさ。
(英語タイトル「The Three-Body Problem」は、
まんま科学用語、SFのタイトルになってしまっていて、てんでダメだと思う)
この、次から次へと読者の予想を覆していく、しなやかな変わり身と重厚な筆致は、
ちょっと「
ドグラ・マグラ」を彷彿とさせるし、奇書と言っていいレベルだなと思いました。
で、このヴァーチャル・リアリティゲームを、
作中現実世界にフィルターをかけて読者にちら見させる装置にしている点、
なおかつ、ゲームとして、誰も体験したことがない奇抜な舞台に加えて、
歴史上の人物に滑稽なアレンジをして登場させるなどのシャレを効かせ、
メチャクチャ知的で面白い文明構築シミュレーションゲームのように思わせている点が、
秀逸だなと思いました。
(実際のゲーム化は、かなり難しいと思います。どこにゲーム性があるのかもよくわからないし。)
作品の色合いが、次々と変貌しつつも、
冒頭の文革シーンがキーパーソンの行動の動機に繋がっているなど、
全般的には、よく練られていると思いました。
このキーパーソン。悲劇の中、ここぞというところで、ハッとするような強かさを見せつつも、
あまり狂気を感じさせず、清楚で品格を保っているという点で、
「
占星術殺人事件」のヒロインのイメージと重なるなと思いつつ読み進めていました。
でも悲劇的生い立ちに免じて百歩譲っても、その立場にいたのなら、娘は死なせちゃダメだろうと。
カウントダウンやら、科学者の自殺等のオカルティックなくだりは、
謎めかすための設定だと思いますが、なくても良かったのかと思いました。
(とにかく何でも詰め込んだれ的アジア的カオス感は嫌いではないが)
最終的にはオカルト設定も回収されますが、もはや何でもあり過ぎでちょっとなあ。
カウントダウンは、効果が不確かな割に、さすがに難易度高すぎるだろと。
三部作のうちの第一部のようで、すぐさま続編を読みたいところですが、
まだ和訳されていないようです。
三体(2021.09.27追記)
三体IIを読み始めたら、途中で、前作を結構忘れていることに気付き、結局読み直す羽目に。
パナマ運河において、太平洋側から日が昇り、大西洋に沈むという表現があり、
逆だろと思ったのですが、
よくよく調べてみると、パナマ地峡が極端に湾曲しているので、
局地的に見ると、運河の東側に太平洋が回り込み、西側に大西洋が回り込み、
東西逆転しているのですよね。
単純に驚きました、ただの備忘録です。